BARで飲む酒が美味い理由
のっけから裏切ってしまうが、今回は、探偵ネタではない。
酒ネタオンリー! オレの偏見で、人はナゼ、BARなんぞに来るのかということについて講釈をたれてみようと思う。
オレは酒が好きである。
呑む時はウイスキーのボトルが1本空になる。
けど、家では呑まない。
ついでに言うと、店を閉めた後、自分の店でもほとんど呑まない。
ナゼか…。
理由はカンタン。
はっきり言って、マズイのである。
こんな事をお客に話すと、返ってくる意見は大体次の通り。
「雰囲気が違う」
「使っているグラスが違う」
「氷が違う」とな。
じゃコレならどうだ!
と、自分の家をお店とほとんど変わらない状態にしたことがある。
バカラのクリスタルグラス、純氷のカチ割り・丸氷、間接照明、BGM、優作師匠のポスター…。
しかし、それでも美味しくない。
何かが違うのだ、決定的な何かが…。
オレと同じことをしたバカなダチがいる。
そいつは、オレと違って大金持ち。
わが『ANSWER』よりも、洒落た部屋を作ってしまったもの好きだ。
あるとき、そいつの家に遊びに行った。ほかにも何人か遊びに来ていた。
いやあ、楽しいのなんの。酒も美味いし。
ところが、しばらく経ってそいつに会ったら、こんなことを抜かしやがった。
「あれから、自慢の部屋で呑んでるんだけど、全然、美味しくないんだ。あのときは、楽しかったんだけどなぁ…」
オレは思った。
あんなゴージャス・ルームまで作っておいて、まだ満足してねーのか?
と。正直ムカついた。
で、新宿にある行きつけのBARに呑みに行った。
腹が立ってコラムのネタも出てきやしない。
『ボンボンの世迷言』、『金持ちの鼻タレ道楽』…。
なんじゃ、このタイトルは。書いちゃあ捨てての繰り返し。
メモ帳がジャンジャンとクズになっていく。気が付くと、もう最後の1枚。
すると、次の瞬間、カウンターの中から、さり気なくメモ用紙が出てきたのだ。
プ~カプカやり過ぎてタバコの箱を握り潰したときには、オレのお気に入り赤ラークを用意して、笑顔で差し出してくれる。
よく気がつくなあ、さすがバーテンダー!
痒~いところに手が届いてるんだなぁ。ん?
待てよ。
今夜は酒も美味いゾ。
あ、そうか! わかったぞ!
酒が美味しくなかった原因、それは、酒や雰囲気のせいではなく、
このちょっとした気遣いが無かったからなのだ。
エライぞ、オレ!
あ、そして金持ちのダチ、スマン…。
オマエは間違ってなかった。
そう、オマエはすべて自分でやってしまったから、酒が美味くなかったんだよ。
呑む以外のことはぜ~んぶ、やってもらわなきゃ。
BARに行けば、ワガママ放題に呑みたい酒を呑んでも、くだらない話をしても、キレイに勘定さえ払えば、よほどの事をしない限り、「有難うございます」と感謝までされる。
しかも、面倒くさい後片付けをしなくても済む。
酔いたいだけ酔って「またねぇ~」と、去るだけ。
そりゃあ、酒も美味いはずだよ。
だから、人はBARに行くんだなぁ。たぶん…。
そんなワケで、オレは家で呑まない。
となると、今日はどこで管を巻くかを財布と相談しながら考えるだけ。
はけ口を求めて…。
あぁ、もうこんな時間!
早く店を閉めて呑みに行かなきゃ。
優作師匠のフィギュアに別れを告げて、オレは六本木の闇の中へ消えて行くのであった。