修行記|探偵修行初日の夜

探偵修行初日の夜

「うお~ッ!」
洋服と週刊誌と漫画で埋め尽くされたベットの上に突っ伏す俺。
緊張でピンと張っていた背中の筋肉を緩ませた。
そうなのだ。今日は記念すべき探偵修行の一日目だったのだ。

朝8時45分、「おはようございます!」 と十分に事務所のドアを叩いた。  
先輩熟女探偵が迎えてくれたが、他には人の気配が全くない。

不思議に思ってその旨を尋ねると、現場に出ている人、さっき「帰った」という人(!)、今日は現場の動き次第で来ないかも(かも?)
という人・・・ざっと名前を挙げられたが、そんな一辺に言われてもお、覚え切れん!!
この熟女探偵、おっとりしているように見えて全員のスケジュールを把握しているとは。
あなどれないゾ!!

時間はそれぞれ自己管理。
職業上、全て依頼人の意向で動くため勤務時間はある意味24時間体制。 
現場での活動も多く、皆が一同に事務所に介することは珍しくもあるのだという。

先輩熟女探偵は、非常に親切に電話の取り方から、メールのチェック、必要書類などを事細かに説明してくれたが、どうも戸惑いの連続だ。「やることないときは、好きなときに帰っていいわよ。」って言われてもなあ。本当に帰ったらアイツやる気ねえなとか言われそうだし。

そんなこんなで見慣れぬ書類や環境にワタワタしているうち、時計の針は午後を示し、気がつくと人が増えていた。

挨拶もそこそこにあわただしく席に着くなり、「この案件の進み具合は?」、「新規問い合わせの返答は?」、「●●会社の社長が交代したという情報を得た」など、テレビでよく見る株式市場さながら、矢継ぎ早にベテランスタッフ間での情報交換がなされ、その場の迫力とめまぐるしさに、別世界の空気をビシバシと感じた。

俺の中での昨日までの"探偵"といえば・・・アウトロー、一匹狼という言葉がハマるイメージだったが、実際はチームワークがモノを言うことを知り、納得。調査にしろ工作にしろ、知恵を搾り出し、依頼者に沿ってオリジナルのパターンを提案し、実施しなくてはならない。つまり、フルオーダーメイドで案件を作り上げていくってこと。
探偵=浮気調査=ひたすら対象者を追いかければいいもんだと思っていた俺には想像以上に奥深く、そして難しい仕事だと、若干萎縮気味の俺・・・。

しか~しだッ! 俺もいいっぱしの男だ!! ここでひるんではいられない。                
"探偵"というイカした響きに惹かれたというありがちな俺にもかかわらず、こころよく受け入れてくれたボスからの帰り際の一言。
「先輩からワザを盗め! そして真似するのではなく、自分の長所を伸ばして、一番になれ!」 と、ベンチャースピリット溢れる言葉が胸に響く!

これから待ち受ける荒波を目の前に、俺は龍馬にでもなった気分で、事務所のベランダから広がる西新宿の夜景を見渡し・・・などと、ちょっとカッコつけつつ、修行の初日は幕を閉じた。

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