コラム|何かが見える、何かが聞こえる。(前編)

何かが見える、何かが聞こえる。(前編)

何かに取り憑かれる、なんていう表現がありますが、この前の尾行のときは、まさに百鬼夜行、魑魅魍魎が跋扈するエリアに、探偵土谷は足を踏み入れてしまったのです。

それはある暑い夏の日のことでした。

日中の照りつけていた日差しがアスファルトに吸収され、夜になっても、うだるような、生ぬるい澱んだ空気が、都会のそこかしこに残っている・・・そんな夜でした。

今思えば、不吉の前兆だったのかもしれません。

その日は男の勤務先で、17時頃から張り込みを開始。浮気の証拠をつかむのが目的でした。

キレイな奥さんがいるくせに浮気をする男に敵意をみなぎらせ、蒸し暑い車内で張り込む土谷。
ペットボトル1本分くらいの汗が出きった4時間後、

21時05分に男が出てきました。

足取りも軽く、駅へ向かう男。

 「あぅうぁ~、もぉぉ、遅いヨー、やっとかよっ!」

思わずそんなことを呟きながら、サウナ状態の車内から出て、ぬるい外気を吸い込み、つかの間の開放感に浸る探偵たち。

そして、それこそ猟犬の霊に取り憑かれたようにターゲットを追う。

男が携帯で誰かと話す様子をうかがいながら、"その時"の期待に胸を膨らます一同。

そして男は繁華街へと出て、ファッションビルの入り口で待っていた女性と合流したのです。

    キターーー!
キターーー!
キターーー!

さりげなく近くを通り過ぎ、会話を聞く土谷、カメラで遠くから撮影しているスタッフ、次の動きに備えているスタッフ。

三者三様の動きをとりながらも、ココロの声は同じ探偵たち…。

そして二人の近くを通ったときに彼女が、「思ったよりすぐに出て来れたね。」と彼に言っているのが聞こえました。

  うんっ、待てよ。あの女・・・、なんか見たような・・・、

  あぁ、ヤツの前に会社から出てきた女じゃんっ!

  ・・・っていうことは、

    ズバリ "社内不倫" なのね。

  よくあるパターンとはいえ、テンション上がります^^

二人は連れ添って歩きながら、狭い路地にある居酒屋へと入店。ほっと一息入れます。

依頼人様に連絡を入れつつ、出入り口が見える位置にスタンバイします。出入り口は建物の表と裏の2箇所。

土谷は表、他の2人は裏と分かれて張っていると、じめじめした暑さの中、遠くから奇妙な音が聞こえてきました・・。

 ペシッペシッペシッペシッ、

  ペシッペシッペシッペシッ、

   ペシッペシッペシッペシッ、

徐々に近づいてきます。一秒間に2回くらい「ペシッ」って音が響きます。

一瞬チラっと見ると、めがねをかけたサラリーマン風の中年男性が路地からこちらに歩いてきます。

 ペシッペシッペシッ、

  ?o?

なにやらすごい勢いで、自らの後頭部を右手で叩いているのです。

  一心不乱に叩いているのです。

そして前を通りすぎた中年男性の後姿を見ると・・・、

  叩かれている後頭部が夜目にも鮮やかな肌色なのです。

さらに、

ペシッペシッペシッ(ふわっ)
ペシッペシッペシッ(ふわっ)

よく見ると、なにかが、ふわっと地面に落ちてます。

 うんっ?

  うわぁぁぁっっ!!

    髪の毛じゃん(汗)

叩かれるたびに、髪が地面に落ちていく・・・。

  怖い、怖すぎる。気の毒すぎて見てられん。

そちらを見ないように出入り口に神経を集中します。危ねぇ、集中力を30%ほど削られたぜ、フゥ。

中年男性はビルの角を曲がり、ペシッペシッも遠ざかっていきました。

するとしばらくして土谷の携帯がブルブル。

やっ、裏口から出たか?と思って電話に出ると、

  「土谷さん!スゴイもの見ちゃいました。」

  「・・・それって、"ペシペシ髪ふわっ"じゃねーか?」

  「それっす、それ。」

  「・・・俺も見た・・・。」

  「ボクも見ちゃいました…。」

  「集中力、削られないようにな。」

  「・・・はい。」

(つづく)

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